ルーシー・リーは生涯に一度だけ陶器のデザインを手がけたことがありました。 ウェッジウッドがルーシー・リーにコーヒーカップとソーサーのデザインを 依頼したのです。 ウェッジウッドから送られてきた粘土を使ってルーシーがデザインしたのは この写真を含む20数点のプロトタイプでした。いかにもルーシー・リーらしい シンプルで美しい形です。 実際は写真から受ける印象より小振りで、手のひらにすっぽりと包み込むことが できるほど、薄い繊細な器です。結局理由が明らかでないままに実現することは ありませんでした。ルーシーはこの出来事について言葉を残していませんが、 いくばくかのお金を受け取る替わりに、作品をすべて戻して欲しいと言い、 これらのプロトタイプを最後まで工房に残していました。 ハンス・コパーは、コーヒーポットやミルクジャーなど、セットすべてを 作ってからプレゼンテーションしたほうが良かったかもしれない、と語ったと 伝えられていますがこの作品が生産化されなかったことはデザイン界にとって 大きな損失であった、これが実現されていたら20世紀のデザインを大きく 変えていただろう、と「ルーシー・リー」の著者トニー・バークスは 書いています。 ルーシー・リーが1995年に亡くなったあと、これらはオークションに かけられましたが、管財人たちの意向で作品はばらばらになることなく、 ノーリッチにあるセインズベリーセンターにまとめて納められました。
20世紀を代表する最も偉大な陶芸家として記憶されるルーシー・リーとハンス・コパー。そしてバーナード・リーチ。その作品と彼らに関わった人たちのこと、そして見聞きした展覧会のあれこれを思い浮かぶままに。ルーシー・リーとハンス・コパーの作品を愛するひとへ。