岩手県立美術館で開催中のハンス・コパー展に ボタンやブローチが展示されている。 その中に他とは表情の異なる葡萄色のボタンが2点ある。 素焼きに釉薬が塗られてそのまま完成していないボタンだ。 写真がないので美術館でご覧頂くほかないのですが。 ルーシー・リーもハンス・コパーも素焼きをせず 一度焼成で作品を制作したことは良く知られている。 そのためにどこまでが粘土そのものでどこからが 釉薬か化粧泥かはっきりと見極めることは難しく それらが一体となった豊かな表情が特徴だ。 ところがボタンは素焼きしたものが何点か残されている。 ボタンに関しては型を使い素焼きして釉薬を塗り本焼き する通常の陶芸制作方法をとっている。 これはボタンの制作が量産体制であったこと、素焼きして 準備しておくことで注文に素早く応える必要があったためと 思われる。数年前の三宅一生氏のルーシー・リー展では 600点以上にもなるボタンが展示されていた。すべて 色とりどりに釉薬の塗られた美しいボタンだ。 ボタンは今でもたまにロンドンのボタン専門店で ルーシー・リーのボタンが売りにでる。けれど未完成の 素焼きボタンに魅力を感じるのは恐らく美術館だけだろう。 そのおかげで私たちは素焼きのボタンを通して制作の 過程をかいま見ることができる。そして戦争が終わって 明るい色のボタンがどんなに魅力的に輝いたことか 時代に想像を巡らせることもできる。
20世紀を代表する最も偉大な陶芸家として記憶されるルーシー・リーとハンス・コパー。そしてバーナード・リーチ。その作品と彼らに関わった人たちのこと、そして見聞きした展覧会のあれこれを思い浮かぶままに。ルーシー・リーとハンス・コパーの作品を愛するひとへ。