
今月末、国立新美術館でルーシー・リー展が始まる。
アニメーションまで含んだ大々的な宣伝がスタートして
話題を呼んでいる。
彼女の生き方そのもののようにシンプルで高潔、
大胆で優雅なフォルムの器たち。
20世紀を代表する陶芸家ルーシー・リーの
没後初の本格的回顧展。
、、、
と紹介されている。ただし、このキャプションは正しくない。
日本では2002年に
「生誕100年記念ルーシー・リー展 静寂の美へ」が実行委員会
による企画で準備され、滋賀県陶芸の森、愛媛のミウラート美術館
東京のニューオータニ美術館を巡回している。
これは1989年の三宅一生氏によるルーシー・リー展以降
まさに没後初の本格的回顧展であった。この時のカタログは
今も増刷を重ねている。オクスフォード大学客員教授で中国陶磁の
釉薬の権威ナイジェル・ウッド氏によるルーシー・リーの釉薬
調合を含む技法も掲載され大きな話題をよんだものだ。
作品はロンドンとアメリカを含む内外のコレクターから借用され、
ハンス・コパーが作ったルーシー・リーの頭像も出品された。
まさに没後初の大規模展であった。芸術新潮、ブルータスなど
数多くのマスコミにも取り上げられた。
この時の展覧会の人気を物語るエピソードがある。
これは最初陶芸の森とミウラート美術館での開催が終わった時点で
アメリカとロンドンの所蔵家に返却されることになっていた。
ところがその直前、ルーシー・リーの作品のもつ魅力が
引き寄せたともいえるが、ミウラート美術館のルーシー・リー展を
訪れた東京のニューオータニ美術館の方がぜひ
ニューオータニ美術館で開催したいと、
一度没になった開催企画をもう一度美術館に持ち帰って
交渉し、急遽開催が決まったのだ。
ニューオータニ美術館では場所柄もあり各界の著名人の姿が
目立った。また美術館の方にとっても驚きであったというが
従来の客層と違う人たち、若者の姿も際だって多かった。
しかも長時間作品の前に立ちつくし、
他の展覧会とは明らかに異なる鑑賞の姿をみせた。
その後も再度ニューオータニ美術館、栃木蔵の街美術館と
静岡アートギャラリーに巡回するあらたなルーシー・リー展
「器に見るモダニズム」も開催され多くのルーシー・リーの
ファンを生み出した。
今の、ブームとも言えるルーシー・リー人気を生み出したのが
2002年の静寂の美へ、と言えるだろう。それを抜きにして
日本でのルーシー・リーを語れない歴史が存在する。
それをなかったものとする意図が働くとしたら、陶芸史を
大きく歪曲することになるだろう。
その事実を踏まえたうえで、やはりルーシー・リー展として
今回の展覧会も純粋に楽しみだ。
イギリスのセインズベリー視聴覚センターの所蔵作品である
ウェッジウッドのプロトタイプコーヒーカップが展示されるのだ。
これはウェッジウッドの淡いブルーの粘土に白い掻き落としの
ラインが入ったシンプルでまさにルーシー・リーらしい逸品だ。
全部で21点のカップ&ソーサーだがほぼすべてが来るという。
このデザインは何故かウェッジウッドで商品化されず、
試作品はルーシー・リーのもとに返されて
その後アルビオンミューズの工房にかざられていた。
これが商品化されていたら戦後の陶芸界を大きく変えて
いただろう、と言われるカップ&ソーサーで、
小振りで美しく、一目で魅了される作品だ。
今滋賀県の陶芸の森で開催されている「ハンス・コパー展」と
国立新美でこれから開催される「ルーシー・リー展」の
両展とも来年6月まで日本のどこかで見ることができる。
そして来年の夏、両方の作品ともイギリスと国内の所蔵家や
所蔵美術館へ帰っていく。
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