昨年末、あるテレビの番組制作会社の方から電話をいただいた。ルーシー・リーのレシピを取り上げたいという。その中で「先日見た本にレシピが載っていましたが、全く粉を使わないんですね!これは画期的なものですね」とおっしゃった。
実はその本に掲載されたレシピは、ある時知人から、ルーシー・リーのケーキのレシピが欲しいと言われていてお渡ししたものだった。ただ、そこでその人は決定的な過ちをおかしてしまった。英文のレシピに書かれていた「くるみを粉にひいて」と訳すべきところを「刻んで」と訳してしまったのだ。
欧米ではよく小麦粉の代わりにアーモンド粉を入れたりするケーキやクッキーのレシピがある。それをクルミ粉にしたところがルーシー・リーのオリジナルレシピの所以なのだ。ところが、粉ではなくクルミを刻んで入れたのではルーシー・リーのレシピとは全く異なる物が出来上がる。ケーキではなく「チョコレート羊羹」になってしまうだろう。
また、それを読んだひとたちは、それがルーシー・リーの、かの有名なチョコレートケーキレシピと信じてしまう。あのレシピが「ルーシー・リーの」と伝えられるのはルーシーにとって全く不本意なことだろう。
そのレシピは、ルーシー・リーに毎週のようにお茶に招待されていた友人からもらった、英語のメモ書きのレシピだ。彼はルーシー・リーの一大コレクターでもあり、彼女の工房を訪れる常連の一人だった。そしてある時お茶をごちそうになった席で直接に彼女からレシピを聞いたもので、彼女のサインまでされている(他にもロックケーキのレシピなども書かれている)。
ルーシー・リーのチョコレートケーキ、本物のレシピはこうだ。
チョコレート 約115グラム
+ コーヒー少量の水かウィスキーで溶かしたもの
バター 115グラム
砂糖 115グラム
くるみ(粉にひいたもの) 115グラム
玉子 4個
焼き上がったらジャムを全面に塗る。その上にチョコレートをウィスキーか水かコーヒーで溶かしたものを塗る。
ビターチョコレート、バター、砂糖、くるみ粉を120gずつの同量にして作ってみると、わずかにサクッとしてそれはすばらしい、実においしいチョコレートケーキが焼き上がった。
ここにあるルーシー・リーのサインについてもある重大な秘密があるのだが、いつかそれをご紹介したいと思う。
Comments